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東京地方裁判所 平成10年(ワ)18585号 判決

原告 横尾龍一郎

右訴訟代理人弁護士 柴崎伸一郎

同 井波理朗

同 太田秀哉

被告 日興キャピタル株式会社

右代表者代表取締役 森本恭平

被告 日興證券株式会社

右代表者代表取締役 金子昌資

右被告両名訴訟代理人弁護士 齋藤則之

同 加戸茂樹

同 高橋謙治

被告 A

右訴訟代理人弁護士 片岡義貴

主文

一  被告Aは、原告に対し、金一億六九一五万五六五〇円及びうち金一億五九一五万五六五〇円に対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告Aに対するその余の請求を棄却する。

三  原告の被告日興キャピタル株式会社及び被告日興證券株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告Aとの間に生じた部分は被告Aの、原告と被告日興キャピタル株式会社及び被告日興證券株式会社との間に生じた部分は原告の各負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して一億七〇〇八万四九八九円及びうち一億五九一五万五六五〇円に対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告A(以下「被告A」という。)は、被告日興證券株式会社(以下「被告日興證券」という。)に雇用されていた従業員であったが、平成一〇年六月五日懲戒解雇された者であり、平成七年ころから平成一〇年六月ころまで被告日興證券の関連会社である被告日興キャピタル株式会社(以下「被告日興キャピタル」という。)に出向し、業務に従事していた。

(二) 被告日興證券は、有価証券の売買、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引等を行うことを目的とする会社である。

(三) 被告日興キャピタルは、株式、社債等への投資業務、融資及びその斡旋並びに保証等の金融業務等を行うことを目的とする会社である。

2  被告Aの不法行為

(一)(1)  平成八年八月ころ、原告は、仕事上のつき合いのある株式会社長谷工アーベストの資産販売部門マネージャーである河井一彦(以下「河井」という。)から、被告Aを紹介された。

(2)  河井によれば、被告Aは、河井と同郷で、中学校、高等学校を同じくする友人であり、高等学校を卒業後、一橋大学経済学部、同大学大学院を経て、被告日興證券に就職し、現在は被告日興キャピタルに出向中のエリートである、良い利回りのファンドがあるということなので、紹介したいということであった。

(二) 平成八年八月末ころ、河井が被告Aを連れて、原告宅を訪問した。

被告Aは、そのファンド(以下、被告Aが原告に説明したファンドを「本件ファンド」という。)について、被告日興キャピタルの会社案内を示してその業務等を説明した上で、被告日興キャピタルと被告日興證券との関係、被告日興證券グループ内の位置づけから始まって、被告日興キャピタルが本件ファンドを取り扱うことができる理由等を説明した。すなわち、被告日興キャピタルは、被告日興證券の子会社であり、被告日興證券グループ内にあって、被告日興證券のべンチャーキャピタル部門として、いわゆるベンチャー企業を育成する業務を行っている、被告日興キャピタルは、ベンチャー企業に投資を行い、ベンチャー企業が上場するためにあらゆる手伝いをする、ベンチャー企業に対して融資等を行うが、ベンチャー企業のオーナーに良い利回りの本件ファンドに投資してもらい利益を上げていただく等して関係を深める、そして、最終的にベンチャー企業が上場すれば、被告日興證券が引受幹事会社になることができる等被告日興證券に大きな利益がもたらされるとのことであった。原告にも、ベンチャー企業のオーナーをご紹介いただきたい、また、本件ファンドを是非おすすめしたい、この業務は被告日興キャピタル取締役総務部長福田典行(以下「福田」という。)と被告Aとで担当していると述べた。

(三) 被告Aは、本件ファンドについて、概要次のとおり説明した。

本件ファンドは、被告日興證券で取引を行い、これを被告日興キャピタルで取り扱っている、本件ファンドから年利一七ないし二〇パーセント程度が得られるであろうが、ただ、その保証をすることはできない、投資してもらう本件ファンドには、スタートとエンドが定まっており、エンドの時点で利益が判明する、その間途中では解約することができない等と説明した。

原告は、被告A及びその説明を完全に信用し、被告Aの勧める本件ファンドに投資することを決め、平成八年九月二〇日から本件ファンドに投資を開始した。

被告Aは、原告が本件ファンドに投資するための金銭を渡す都度、原告に対し、上司の福田の記名押印のある被告日興キャピタル作成名義の受領書を交付した。

(四) その後、本件ファンドから原告に一定の利益がもたらされたものの、次のとおり投資のために預託した金銭が残高として残っていた。

預託日 預託金額

<1> 平成九年九月二五日付け 六〇〇〇万円

<2> 同年一〇月一日付け 一億一〇〇〇万円

<3> 同月六日付け 三〇〇〇万円

<4> 平成一〇年三月一一日付け 五〇〇〇万円

右の金銭を投資した本件ファンドのうち、<1>については平成一〇年四月二四日、<2>及び<3>については同年五月二五日、<4>については同月一八日にそれぞれエンドが到来するという説明であった。

3  被告Aのした説明等

(一) 平成一〇年六月上旬、被告Aが重要な話があるとして、原告の元を訪れた。

被告Aは、ある人に融資した会社の金が戻ってこなくなったことから、自分は会社をやめさせられることになるであろう、そして、原告から預かっていた前記投資金をはじめ被告Aが担当していた顧客についてはすべて被告A個人で行ったことにされることが決定したとのことであった。

(二) 原告は、まさかと思い愕然となったが、その後被告日興キャピタル総務部宛てに電話すると、被告日興キャピタル総務部長安藤(以下「安藤」という。)が電話に出て、既に被告Aは懲戒解雇となった、また、被告日興キャピタルとしては原告のことは顧客リストにも入金リストにもなく知らない、原告は被告Aの詐欺にあったのではないか等と述べた。

(三) そこで、原告は、原告訴訟代理人らに委任して、被告日興キャピタルに対し平成一〇年六月一七日到達の催告書により前記投資金の返還を請求したが、被告日興キャピタルは、何らの回答もしない。

また、原告訴訟代理人らが安藤に電話で照会したところ、書面で回答するつもりはない、訴訟外で話し合うつもりはないと回答した。

さらに、被告Aは、本件訴訟の被告本人尋問において、被告日興證券が行い、被告日興キャピタルに割り当てられる取引というのは嘘で、すべて被告Aが他に取引を行う第三者に自転車操業的に支払っていたことを述べ、ここに被告Aの詐欺による不法行為(以下「本件不法行為」という。)が判明した。

4  原告の受けた損害

原告の受けた損害は、次のとおり合計一億七〇〇八万四九八九円である。

(一) 直接損害一億五九一五万五六五〇円

原告が本件不法行為により受けた直接損害は、原告が被告Aに交付した金銭と原告が被告Aから受領した金銭の差額となる。別表記載のとおり、原告は、被告Aに対し現金を交付し、被告Aから現金を受領したが、原告が交付した金額の合計は四億一一五七万六八五〇円であり、原告が受領した金額の合計は二億五二四二万一二〇〇円であるので、原告の直接損害は、右の差額の一億五九一五万五六五〇円である。

(二) 弁護士費用一〇九二万九三三九円

原告は、原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟を委任し、東京弁護士会報酬規定による報酬の支払を約束した。原告が本件訴訟により受ける経済的利益は、右直接損害額一億五九一五万五六五〇円であるから、これに東京弁護士会報酬規定を適用すると、原告訴訟代理人に対する報酬額は一〇九二万九三三九円となり、原告は、これを支払う義務を負うこととなる。

5  原告は、本件不法行為により前記損害を受け、また、本件不法行為は、外形上被告日興キャピタル及び被告日興證券の事業の執行の範囲内に属するものであるから、被告Aは、民法七〇九条により、被告日興キャピタル及び被告日興證券は、被告Aの使用者として、同法七一五条一項により、原告が受けた損害を連帯して賠償する義務がある。

6  よって、原告は、被告らに対し、連帯して一億七〇〇八万四九八九円及びうち一億五九一五万五六五〇円に対する不法行為の後の日である平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告日興キャピタル及び被告日興證券)

1(一) 請求原因1(一)は認める。ただし、被告Aの日興キャピタルへの出向期間は、平成元年三月八日から平成一〇年六月四日である。

(二) 同1(二)及び(三)は認める。

2 同2(一)ないし(四)は知らない。

3(一) 同3(一)は知らない。

(二) 同3(二)及び(三)は認める。

4 同4は争う。

5 同5は争う。

(被告A)

1 請求原因1の認否は、被告日興キャピタル及び被告日興證券と同じ。

2(一) 同2(一)(1) は認め、同2(一)(2) は知らない。

(二) 同2(二)のうち、被告Aが原告に対する説明の際、ファンドという言葉を使用したこと(以下、被告Aが原告にファンドという言葉を使用したことがないことを前提にして認否する。)及び被告日興キャピタルの会社案内を示したことは否認し、その余は認める。

(三) 同2(三)のうち、被告Aが原告に対する説明の際、本件ファンドから年利一七ないし二〇パーセント程度が得られるであろうと言ったことは否認し、その余は認める。被告Aは、原告に対し、断定的に、年利一七ないし二〇パーセント程度が得られると言った。

(四) 同2(四)は認める。

3(一) 同3(一)のうち、被告Aが、原告から預かっていた投資金をはじめ被告Aが担当していた顧客についてはすべて被告A個人で行ったことにされることが決定したと説明したことは否認し、その余は認める。

(二) 同3(二)及び(三)は知らない。

4(一) 同4(一)は、別表記載の受領金額62欄を除き、認める。

(二) 同4(二)は知らない。

5 同5のうち、被告Aに関する部分は認める。

理由

一  本件事実関係

原告と被告日興キャピタル及び被告日興證券との間において、請求原因1(一)ないし(三)(ただし、被告Aの日興キャピタルへの出向期間を除く。)、同3(二)及び(三)の事実は争いがなく、原告と被告Aとの間において、請求原因1(一)ないし(三)(ただし、被告Aの日興キャピタルへの出向期間を除く。)、同2(一)(1) 、同2(二)(被告Aが原告に対する説明の際、ファンドという言葉を使用したこと及び被告日興キャピタルの会社案内を示したことを除く。)、同2(三)(被告Aが原告に対する説明の際、本件ファンドから年利一七ないし二〇パーセント程度が得られるであろうと言ったことを除く。)、同2(四)、同3(一)(被告Aが、原告から預かっていた投資金をはじめ被告Aが担当していた顧客についてはすべて被告A個人で行ったことにされることが決定したと説明したことを除く。)、同4(一)(別表記載の受領金額62欄を除く。)、同5のうち、被告Aに関する部分は争いがない。右争いがない事実に加えて、証拠(甲一ないし三、五、六、一〇ないし一二、一四、一六、一七、二〇ないし二二、三五、三六、乙一、二、五ないし一〇、丙一(以上、枝番を含む。)、原告本人、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実(以下「本件事実関係」という。)が認められる。

1(一)  原告は、昭和五八年三月大学を卒業し、摂津板紙株式会社(現在、東証一部上場のレンゴー株式会社)に入社し、その後、ヒルトンインターナショナル、三井不動産住宅サービス株式会社勤務を経て、父(横尾正敏・横尾石油株式会社元社長)の看護のため退社し、父死亡後は家業の不動産賃貸業を営んでいるが、これを会社組織にすることは考えていない。

(二)  被告Aは、昭和六〇年三月一橋大学経済学部を卒業し、同年四月被告日興證券に入社し、平成元年三月八日被告日興キャピタルに出向し、その業務に従事した。

被告Aは、被告日興キャピタルにおいては、総合系列社員に属し、財務部及び総務部の業務を担当し、平成八年四月一日から平成一〇年六月四日まで総務部課長(総合系列五級)の職位にあったが、出向を解除されて、同月五日被告日興證券から懲戒解雇された。

被告Aを含めた被告日興證券から被告日興キャピタルへの出向社員は、出向中、被告日興證券から給与の支払を受けていたが、被告日興キャピタルは、右給与相当額を被告日興證券に支払っていた。また、右出向社員は、出向中、被告日興證券の業務を担当することはなく、専ら被告日興キャピタルの指揮命令に従い、被告日興キャピタルの業務を担当した。

被告Aが在籍した被告日興キャピタル総務部の業務は、経営企画(経営計画、予算等の立案等に関する業務)、秘書(役員の秘書業務等に関する業務)、人事(人事管理、給与等に関する業務)、法務(官庁への申請その他法務一般に関する業務)、株主(株主総会等に関する業務)、庶務(庶務一般に関する業務)、システム化(システム等に関する業務)、財務(資金計画の立案、資金の管理運用、資金調達等に関する業務)、経理(決算、経理処理等に関する業務)等の会社組織の維持運営に関わる業務であり、営業業務ではない。総務部の人数は、約一〇人程度であり、部内には課や係はなかった。

被告Aは、総務部課長であったが、ラインの課長ではなく、部下のいないいわゆる部付課長であるので、管理職ではなく、上司の福田総務部長(平成三年三月被告日興證券から被告日興キャピタルに出向、平成五年三月総務部長に就任、平成七年六月取締役総務部長に就任、平成一〇年二月総務部長を退任、平成一一年四月被告日興證券に復帰)の指示に基づき経理事務と銀行との事務連絡等を担当し、その勤務形態は内勤であった。

(三)  被告日興キャピタル(昭和五八年七月一五日設立。本店は肩書住所地であり、支店が四か所にある。)は、株式、社債等への投資業務、融資及びその斡旋並びに保証等の金融業務、総合リース業及びその斡旋業務、経営コンサルティング業務、企業の合併並びに技術、製造及び販売提携の斡旋業務、投資事業組合財産の管理運営業務等を行うことを目的とする会社であり、被告日興證券の関連会社(被告日興證券の被告日興キャピタルに対する出資割合は五パーセントであったので、被告日興キャピタルは被告日興證券の子会社ではなかった。)である。

被告日興キャピタルは、いわゆるベンチャー・キャピタルであり、その主な業務は、株式公開を目指す未公開会社に対し、株式公開のための資本政策を示すとともに、当該企業に投資してその株式を取得し、当該会社が株式公開(上場)したときに、取得株式を市場で売却し、その売却差益(キャピタルゲイン)をもって利益を上げることである。未公開会社に対する投資は、被告日興キャピタルが自己資金を投資する場合と被告日興キャピタルが機関投資家(法人)とともに設立した民法上の投資事業組合が投資する場合とがある。後者の場合、被告日興キャピタルは、投資事業組合の業務執行組合員としてその管理運営に当たる。

被告日興キャピタルは、銀行業及び証券業の免許を受けていないので、顧客(未公開会社及び機関投資家)から預金、預託金等を預かったり、有価証券の売買、売買の媒介、取次ぎ、募集等を行うことはない。

(四)  被告日興證券(昭和一九年四月一日設立)は、有価証券の売買、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引、外国市場証券先物取引、有価証券の売買等の媒介、取次ぎ及び代理等を行うことを目的とする会社である。

2  原告と被告Aの交渉の経緯

(一)(1)  平成八年八月ころ、原告は、仕事上のつき合いのある株式会社長谷工アーベストの資産販売部門マネージャーである河井から、被告Aを紹介された。

(2) 河井は、原告に対し、被告Aは、河井と同郷で、中学校、高等学校を同じくする友人であり、高等学校を卒業後、一橋大学経済学部、同大学大学院を経て、被告日興證券に就職し、現在は被告日興キャピタルに出向中のエリートである、良い利回りのファンドがあるということなので、紹介したいと言ったが、被告Aは、一橋大学大学院を卒業していないし、被告日興證券のエリートというわけでもなかった。

(二)  平成八年八月末ころ、河井が被告Aを連れて、原告宅を訪問した。

被告Aは、原告に対し、「日興キャピタル株式会社総務部課長」の肩書の記載のある名刺を出して自己紹介した後、被告日興キャピタルの営業用の会社案内(甲五。被告日興キャピタルの業務内容として投資業務、投資事業組合業務、コンサルティング業務、その他の業務を文章、写真、概念図等により紹介したもの。その中において、「ファンド」という言葉は、被告日興キャピタルの提携先の一つとして「海外提携ファンド」という言葉が使用してあるのみである。)を示してその業務等を説明した上、要旨左記のような説明(以下「本件説明」という。)をして被告日興キャピタルで取り扱っている有価証券を利用した有利な取引に投資することを勧誘した。

(1)  さや取り(株式と転換社債・ワラントとの理論価格差を利用して利益を上げること。)を行い、利益が確定した取引を案内するものである(これを手書きの概念図(甲三)で説明した。)。最初にスタート日・エンド日・元金・利益が確定したものを案内する。さや取りは、しっかりしたディーリングをすることができないと作ることができないので、日本の証券会社では大手しかすることができない。年利回りは一五ないし二〇パーセントぐらいになる。一回の取引の期間はおおよそ三週間である。預かった金は取引の終了日に現金で返す。

(2)  原告にこの取引を勧誘するのは、河井から紹介を受けたこと、原告には有力な知り合いが沢山いると聞いたことなどから、特別に案内するものであり、他の者には話さないでほしい。被告日興キャピタルは、株式公開の手助けとして、ベンチャー会社のオーナーに時々証券取引を通じて儲けてもらっているので、その一部を原告にも紹介する。

(3)  被告日興キャピタルでは、この取引に関わっているのは、被告Aとその上司の福田総務部長だけである。お互いの顧客については、情報がもれないようにしているので知らない。この取引に関する連絡は、会社にしてもよいが、他の者には話が分からないので、被告Aがいないときは、電話があったことだけを伝言するようにしてほしい。そうすれば、被告Aから連絡する。そうすることにより、税務調査を受けることを避けられる。源泉分離課税となるが、損失の可能性がない取引なので株式取引といえず、源泉分離課税とならない可能性もある。

以上の被告Aがした本件説明は、実は、全くの虚偽の説明で、被告日興キャピタル及び被告日興證券は、右の取引を取り扱っておらず、ベンチャー会社や未公開会社のオーナー等にこのような取引を勧誘したことはなく、被告Aは、投資金について返済の確実な見込みがないにもかかわらず、本件説明により架空の取引に勧誘したものである(以下、この取引を「本件架空取引」という。)。なお、原告は、被告Aとのやり取りの中で、ファンドという言葉を使ったが、被告Aはその言葉を使っていない。

原告は、本件説明の内容を十分理解することができなかったが、被告Aの懇切丁寧で真摯な説明態度から、本件架空取引は元金保証の高利回りの有利な取引と思った。

(三)  本件勧誘後、被告Aは、平成八年九月に入って、原告に架電し、本件架空取引を再度勧誘したところ、原告は応ずる意向を示し、同月二〇日、被告Aは、原告の自宅で現金二〇〇〇万円を預かった。その後、被告Aは、原告から、平成八年一〇月に八〇〇万円、同年一一月に二〇〇万円を預かり、月一ないし四パーセント程度の利息を支払った。原告と被告Aとの本件架空取引は、エンドが到来しても、その取引への投資金を返済しないで、次の取引の投資金として継続することもあった。原告の投資金は、当初、原告の自己資金であったが、途中から、原告の知人である大津晴一(三協段ボール株式会社代表取締役社長)から原告が借りた金銭が充てられた。

被告Aは、原告を本件架空取引に勧誘する際、その取引の利回り表(甲一二の1、2、乙一〇の1ないし4。スタート日、エンド日、金額、利益、利回り等を記載した表)を交付し、原告は、被告Aに対し、右利回り表記載の金額を現金で自宅又は銀行で交付した。その際、被告Aは、原告に対し、現金の受領書(甲一の1ないし4。記載事項は、あて先として原告、受領金額、受領の趣旨として投資有価証券代金、受領文言、日付、被告日興キャピタルの本店所在地、商号であり、右商号の下に「総務部長福田典行」の記名印及び職印が押捺してある。)を交付した。しかし、右利回り表及び受領書は、いずれも被告Aが勝手に作成したもので、もとより被告日興キャピタルが作成したものではなかった。また、被告Aは、振出人・被告日興キャピタル取締役総務部長福田典行名義の八〇〇〇万円の小切手を偽造し、原告に対し、その投資金の担保として交付した。その他、右受領書及び小切手以外に、被告日興キャピタルの名称を記載した書面は、原告に交付されていない。

本件架空取引につき、原告が被告Aに交付した金銭の金額、交付日、交付場所及び原告が被告Aから受領した金銭の金額、受領日、受領場所は、別表記載のとおりである。したがって、原告が被告Aに交付した金額の合計は四億一一五七万六八五〇円であり、原告が被告Aから受領した金額の合計は二億五二四二万一二〇〇円であるので、その差額の一億五九一五万五六五〇円が原告が回収することができない金額である。

原告は、被告Aから本件取引の利益金を受領した場合、被告Aに対し、被告日興キャピタル宛ての領収書を交付せず、また、被告日興キャピタルへの手数料を支払うこともなかったが、被告Aへの謝礼として合計二〇〇万円程度の現金を交付した。

(四)  被告Aは、被告日興證券の支店勤務時に顧客からクレームを付けられ、その顧客の損失補填要求に応じるうちに、その資金に窮し、そのため、原告を含む一二名ほどの者に対し、本件架空取引又はこれに類した取引を勧誘し、これらの者から金銭の預託を受けて、預託金を自転車操業的にこれらの投資者間で順次利益金として支払に充てていたほか、被告日興キャピタルから約七億五〇〇〇万円を横領して自己のために費消した。

二  被告Aの不法行為の成否

1  本件事実関係によれば、(一)被告Aは、原告に対し、投資金を返済する確実な見込みがないにも関わらず、本件説明をして本件架空取引を勧誘したこと、(二)原告は、本件説明を信じて、本件架空取引に投資をし、その結果、別表記載のとおり、被告Aに金銭を交付し、他方、被告Aから金銭を受領し、その差額の一億五九一五万五六五〇円が回収不能となり、これにより同額の損害を受けたことが認められる。

そうすると、被告Aの原告に対する右の一連の行為は、不法行為に当たるということができる。

2  本件記録によれば、原告が原告訴訟代理人らに対し、被告Aに対する本件訴訟の追行を委任したことが認められるところ、右訴訟の追行の委任は、前記不法行為の被害者である原告がその権利を擁護するためやむを得ないものであり、また、右訴訟の追行の委任に伴う弁護士費用は、相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害ということができる。しかして、被告Aに対する本件訴訟の請求の内容、審理経過、認容額等、本件訴訟をめぐる諸般の事情を考慮すると、右不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は、一〇〇〇万円(右回収不能による損害額一億五九一五万五六五〇円の約六パーセント相当額)が相当である。

3  したがって、被告Aは、原告に対し、不法行為に基づき、右回収不能による損害額一億五九一五万五六五〇円と弁護士費用一〇〇〇万円の合計額一億六九一五万五六五〇円及びうち一億五九一五万五六五〇円に対する不法行為の後の日である平成一〇年四月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

三  被告日興キャピタル及び被告日興證券の不法行為の成否

1  被告日興キャピタルの不法行為の成否

原告の被告日興キャピタルに対する本訴請求は民法七一五条一項に基づくものであるので、以下、右請求につき同項の要件該当性について検討する。

本件事実関係によれば、(一)原告は、会社勤務の経験があり、会社の組織、業務運営等につき一般的な理解があること、(二)被告Aは、被告日興キャピタル総務部課長であり、その担当業務は、経理事務と銀行との事務連絡等の会社内部の業務であって、営業業務ではなく、原告は、被告Aから交付された名刺から、被告Aの担当業務が会社内部の業務であって、顧客相手の営業業務ではないと判断することができたこと、(三)被告日興キャピタルの業務は、投資業務、投資事業組合業務、コンサルティング業務、その他の業務であり、このことは、被告Aが示した被告日興キャピタルの会社案内(甲五)から、原告も理解することができたこと、(四)被告日興キャピタルは、銀行業及び証券業の免許を受けていないので、顧客から預金、預託金等を預かったり、有価証券の売買、売買の媒介、取次ぎ、募集等を行うことはなく、したがって、本件架空取引を行っていないこと、(五)被告Aは、原告に対し、本件架空取引は、元金保証で年利一五ないし二〇パーセントの高利回りが保証された取引であり、特別の者にのみ案内するものであるから、他の者に話さないようにしてほしい、被告日興キャピタル内でも、本件架空取引を知っているのは、被告Aと福田総務部長だけであると説明したこと、(六)原告は、被告Aの本件説明のみを信用して本件架空取引に応じたものであること、(七)本件架空取引が行われた場所は、原告の自宅又は銀行内であり、被告日興キャピタルの本店等の営業所内ではなく、本件架空取引の投資金及び利益金は、すべて現金で受渡しがされたこと、(八)本件架空取引に関し被告Aから原告に交付された書面のうち、被告日興キャピタルの名義が使用された書面は、前記受領書と小切手のみであること、(九)被告Aは、原告に本件架空取引の利益金を交付する際、被告日興キャピタルの手数料としての相当の金員を控除することはなく、他方、原告は、被告Aに高額の謝礼を支払っていることが認められる。

以上認定の本件架空取引の当事者である原告の職業、経歴、知識、経験等及び被告Aの地位、権限等、被告日興キャピタルの業務内容、本件説明の内容、取引の内容、場所、方法等からする本件架空取引の非公然性、不自然性等からすると、本件架空取引は、実質上も外形上も、被告Aの使用者である被告日興キャピタルの「事業ノ執行ニ付キ」行われたものと認めることはできない。仮にそうでないとしても、本件架空取引が被告Aの職務権限内において行われたものではないことは、前記認定のとおりであるところ、原告は、重大な過失により、そのことを知らないで本件架空取引をしたものと認められるから、原告の受けた損害は、「事業ノ執行ニ付キ」加えられた損害であるということはできない。

したがって、民法七一五条一項に基づく原告の被告日興キャピタルに対する本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

2  被告日興證券の不法行為の成否

原告の被告日興證券に対する本訴請求は民法七一五条一項に基づくものであるので、以下、右請求につき同項の要件該当性について検討する。

本件事実関係によれば、前記1(一)ないし(九)が認められるほか、被告Aは、昭和六〇年四月被告日興證券に入社し、平成元年三月八日被告日興キャピタルに出向し、その業務に従事した者で、平成八年四月一日から平成一〇年六月四日まで総務部課長の職位にあったこと、被告Aを含めた被告日興證券から被告日興キャピタルへの出向社員は、出向中、被告日興證券から給与の支払を受けていたが、被告日興キャピタルは、右給与相当額を被告日興證券に支払っていたこと、右出向社員は、出向中、被告日興證券の業務を担当することはなく、専ら被告日興キャピタルの指揮命令に従い、被告日興キャピタルの業務を担当したことが認められる。

以上認定の被告Aが被告日興證券から被告日興キャピタルへの出向社員であって、被告日興證券の業務を担当することはなく、専ら被告日興キャピタルの指揮命令に従い、被告日興キャピタルの経理事務及び銀行との事務連絡等を担当していたことからすると、被告日興證券は、被告Aにつき、民法七一五条一項にいう「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者」と認めることはできない。仮にそうでなく、また、被告日興證券が証券会社であることを考慮しても、本件架空取引は、実質上も外形上も、被告日興證券の「事業ノ執行ニ付キ」行われたものと認めることはできないし、また、原告は、重大な過失により、本件架空取引が被告Aの職務権限内において行われたものではないことを知らないで本件架空取引をしたものと認められるから、原告の受けた損害は、「事業ノ執行ニ付キ」加えられた損害であるということはできない。

したがって、民法七一五条一項に基づく原告の被告日興證券に対する本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

四  結論

よって、原告の本訴請求のうち、被告Aに対するものは、不法行為に基づき、損害合計額一億六九一五万五六五〇円及びうち一億五九一五万五六五〇円に対する不法行為の後の日である平成一〇年四月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告日興キャピタル及び被告日興證券に対するものは、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉戒修一)

別紙<省略>

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